今年80回目を迎えたルマン24時間耐久レース。
中野信治はこのルマン24に今回で6回目となる参戦を果たしました。
昨年は日本が震災後の厳しい状況の中、多くの方々の後押しを受けて中野は日本としてただ一人ルマン24に参戦、そして初のルマン24を完走。
このような厳しい時期だからこそ日本人の誰か一人でもあきらめずに世界への挑戦を続けなければならなかった昨年。
中野の戦いを通して、過酷な状況の中でも日本が再び立ち上がろうとしていることを世界にアピールし、また世界各国からの多くのサポートに対して感謝を伝える大切な戦いでもありました。
そして2012年。
中野がオファーを受け共に戦ったのは、ルマン24初参戦となるベルギーのチーム「Boutsen Ginion Racing」。
元F1ドライバーであったシエリー・ブーツェン氏の名を冠する新興チームです。
経験が大きくものをいうルマン24において、ルマン参戦経験がないこのチームで中野はマシンのセットアップからレース戦略、チームメートへのルマンの走り方のアドバイスまで多くの役割を任される事になりました。
その重責を担いながら、6月3日に行われた公式走行で中野は序盤から同クラスでトップタイムをマークするなど存分にその存在をアピール。
これまで一切テストが出来なかった中野にとっては一年ぶりのレーシングカーのドライブとなりましたが、そのブランクをまったく感じさせない切れ味を見せました。
6月13日・14日にはいよいよ公式予選がスタート。
初日は中野がアタックを担当し4番手と好位置でこの日のセッションを終了。
翌日の予選最終日はチームの方針でタイムアタックを行わないことが決まり、上位争いには参加することが出来ませんでした。
そのかわり中野に課せられた役目は、経験の少ないチームメートが少しでも走りやすい車を作りあげること。
彼らの運転能力を見極め、どこに照準を合わせたマシンにするかは難しい課題でもありました。
中野とチームメート2人のタイム差は3日に行われたテスト段階から3秒以上あり、中野のドライビングに合わせたセットアップだと、タイム、スピード差からくるマシンの挙動の違いも出てくるので、他の2人のドライバーが安定してラップを刻む事が出来ません。
車を速く走るためのセットアップは、どうしても車の安定性を少し捨てなければならないのです。
しかしルマンは3人のドライバーで戦うレース。
経験の少ない2人が上手く走ってくれることが、ルマン24を走りきる為の最重要課題。
このレースは究極のチームスポーツなのです。
結果として予選の順位やマシンの速さを捨ててでも、レースで彼らが快適にミスなく24時間を共に戦いきる事が出来るマシン作りに集中することになりました。
中野自身も十二分に彼らが何を望んでいるかを理解していました。
こうして限られた時間の中で出来うる準備をして臨んだ決勝。
決勝はクラス10番手からのスタート。
スタートは中野が担当し、順調な滑り出しをみせ着実に周回を重ねます。
このあとチームメイトにドライバーチェンジ。代わった二人のドライバーも速さは中野に及ばないものの慎重に走行。
皆が見守る中で順調にレースが進んでいましたが、中盤にさしかかったあたりで燃料系のトラブルが発生。
マシンをコース上に止めてしまいます。
何度か再スタートを試みた結果、再びエンジンがスタートした模様で10分以上のロスをしたもののチームメートがピットに戻ってきます。
燃料の給油を行い再び順調に走り続けていましたが、今度はチームメートの走行中にタイヤがパンクした模様。
ゆっくりとマシンはピットに戻りタイヤを交換しドライバー交代を行います。
ここで中野にドライバーチェンジをし巻き返しを図ろうとピットアウトしようとしたところでリヤサスペンションが壊れていることを中野が発見!
大切な1周を犠牲にすることになり、再びゆっくりと長いサルテサーキットを走りピットに戻ってくることに・・・。
チームメートの走行中にパンクをした際、サスペンションに何かが起きていたのだと思われますが、チームはそれを確認せずに中野をコースに送り出してしまったのです。
ピットに戻ったマシンは大急ぎで修復作業に入りますが、ここで40分以上をロスしてしまうことになりました。
幾つかのマシントラブルに見舞われ大きくタイムロスをしてしまう場面もありましたが、チームの懸命の頑張りもありなんとかマシンを修復し、ついにルマン24を完走。
結果は10位と予選順位のままでしたが、中野にとっては2度目となる栄光のチェッカーを受けることができました。
ベルギーのチームとしては、初めてのルマン24時間耐久レースにおける完走になったようです。
ルマン24初参戦の経験の浅いチームがルマン24を完走できたこと、ここまでマシンを作り上げ、チームをまとめてきた中野にチーム全員から多くの賛辞がおくられました。
中野のレース中のベストラップは優勝したチームより速く、全体の3番手タイム。
このレース中のペースにはチームメンバー全員が驚き、また彼ら全員の大きなモチベーションになっていました。
こうして幕をおろした今年のルマン24。
中野にとっては2年連続の完走、そして他の日本人参加選手が全員リタイアする中、ただ一人24時間を走りきる結果となりました。
「まずは今年もこうしてルマン24という最高の舞台に立たせて頂いたこと、オファーをくれたチーム、そしてご支援くださいました全ての方々にこの場をお借りして御礼を申し上げます。
僕にとっては6回目の挑戦となる今年のルマン24時間。
振り返ってみると今までで一番落ち着いて戦う事が出来たように思います。
この2年連続の完走により、このレースにおける大きな自信も掴み取ることが出来ました。
この自信は今までのレース後の感覚とは全く別のものです。
速く走ること、そして確実にレースを走りきる為の走り方、戦い方。
今年、僕はチームから大きな役割を与えられていました。
その全てというのはおこがましいですが、その大半をほぼ完璧にこなせたと自負しています。
テスト時からの好調さと、レースにおけるスピード。
このサーキットの経験の少ないチームメート達の為に、決してスピードを重視していないセットアップで挑んだレースでしたが、それでもレース中に僕が出したベストラップは、今年最も参戦台数が多く競争が激しかったLMP2クラスにおいて3番手となるタイムでした。
今回は一年ぶりのレーシングマシンのドライブになりましたが、本当に心から楽しむことができました。
こうして多くの方達のご支援、お力添えのお陰で世界で戦い続けられる事は最高の喜びであり幸せなこと。
今更ながら少し運転が上手になったと思えるほどです。(笑)
もちろん僕の本当に望む結果はまだ先にありますが、僕自信にとっても大きな自信となった今回のルマン24でした。
この良い流れが全て来季のルマン24に繋がると信じています!」
中野信治
Po. | No. | Cl. | Team | Car | Driver | Laps |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | LM P1 | Audi Sport Team Joest | Audi R18 e-tron quattro | Fässler / Lotterer / Tréluyer | 378 |
2 | 2 | LM P1 | Audi Sport Team Joest | Audi R18 e-tron quattro | Capello / Kristensen / McNish | 377 |
3 | 4 | LM P1 | Audi Sport North America | Audi R18 Ultra | Bonanomi / Jarvis / Rockenfeller | 375 |
24 | 45 | LM P2 | Boutsen Ginion Racing | Oreca 03 - Nissan | Briere / Petersen / Nakano | 325 |
Po. | No. | Team | Car | Driver | Laps |
---|---|---|---|---|---|
1 | 44 | Starworks Motorsports | HPD ARX 03b - Honda | Potolicchio / Dalziel / Kimber-Smith | 354 |
2 | 46 | Thiriet By TDS Racing | Oreca 03 - Nissan | Beche / Thiriet / Tinseau | 353 |
3 | 49 | Pecom Racing | Oreca 03 - Nissan | Perez Companc / Ayari / Kaffer | 352 |
10 | 45 | Boutsen Ginion Racing | Oreca 03 - Nissan | Briere / Petersen / Nakano | 325 |