WEC世界耐久選手権 SEASON 2014

24時間を超えて2014(3)

24.
June
2014

木曜日に行われた予選でも引き続き初日と同じような作業が続く。
この日も僕は殆どラップを重ねられなかったが、それでもマシンに対する理解度はこの数回のドライブで格段に上がっている。
チームメートが出来るだけ周回をこなせる方向でプランを立てているので、僕が周回を稼げないのは仕方ない。
チームメートに少しでも僕とのタイム差を縮めてもらうことが先決だ。
これはチームスポーツだと言うことを忘れてはいけない。
時間の関係で予選も殆どまともに行えなかったのだが、既に決勝に向けてのマシンのイメージは僕の中で出来上がっている。

この頃になってある問題が露呈した。
他社とのタイム差が大きいことの原因の一つには上記の要因もあるのだが、今回の一番のディフィカルティは我々のマシンが最新の2014年バージョンに対して2012年バージョンであることでもあった。
もちろん僕もこの事実を知ってはいたが、チームも含めて誰もこれほどまでの差があるとは予想していなかったのだ。

フェラーリ458を使用するチームの中で、我々以外のチームは全て2014年バージョンのマシンを使用している。
2年の間にレーシングカーがどれだけの進化を遂げるかは推して知るべしであろう。

エンジンもマシンのエアロダイナミクスも格段に進化しているライバルチームに対して2年前の仕様である我々が勝てる可能性は極めて少ない。
ストレートスピードだけでも10km/hもの差があるのだ…。
1周の距離と直線区間の長いルマンのサルトサーキットにおいてはそれだけで数秒単位の差が簡単に生まれてしまう。
3秒、いや4秒近い差が生まれるかもしれない。

ただ今更この事実に不満を言っても何も始まらない。
It is what it is …なのである。
与えられた条件の中でチームが力を合わせてベストを尽くすしかない。
こんな時こそ先を見て身体の力を少し抜いてみる。
もうやるしかないのだ。

24時間を超えて2014

2日間の予選を終えて金曜日にはルマン市内で毎年恒例のドライバーズパレードが行われる。
ドライバーにとっては決勝を前にして束の間の休息日でもある。

このドライバーズパレードはルマン決勝直前の名物イベントなのだが、僕はこのパレードをいつも心から楽しみにしている。
ルマンの旧市街をクラッシックカーに乗って1時間程のパレードを行うのだが、毎年沿道には数万人の老若男女が集まってくれている。
実際、僕達ドライバーはパレードのスタートこそクラシックカーに乗っているが、その道程の大半は車を降りて歩きながら沿道の皆さんにサインをしたり写真を撮ったりしながらパレードする。

24時間を超えて2014

このパレードに参加するたびに、ここルマンへ戻ってこられて良かったと感じることが出来る。

毎年同じ場所で手を振ってくれる家族、「SHINJI!」と声をかけてくれる沢山の人たち。

ヨーロッパにおけるモータースポーツの立ち位置がどこにあるのかを嫌と言うほどに認識させられる素晴らしいイベントだ。
日本の我々には衝撃的と言っても良いのかもしれない。
日本人にとっては羨ましくも遠い未来のことになると思うのだが、いつの日か日本でもこんな光景が見られればといいなと毎年思いを馳せる。

24時間を超えて2014

そして遂にこの日がやってきた。

今年82回目を数えるルマン24時間耐久レース決勝のスタートだ。
フランス国内ではテニスの全仏オープン(ローランギャロス)、自転車のツールドフランスと並んで三大スポーツイベントの一つに数えられるルマン24は毎年6月の夏至に一番近い土曜日15時にスタートする。
このイベントには25万人を超えるファンが訪れるのだが、これだけの人を集めることが出来るスポーツイベントは世界を探してもなかなかお目にかかれないと思う。

24時間を超えて2014

またこのルマン24は世界の三大レースであるアメリカの「INDY500」「F1モナコGP」に次いで行われる毎年最後のモータースポーツ最大のイベントでもある。
こうして今年43歳を迎えた僕が再びこの偉大な歴史を持つルマン24のスターティンググリッドに今年もスタートドライバーとして並べることは光栄なことだ。

24時間を超えて2014

スタート前に空を見上げてみる。

僕が毎回マシンに乗り込む前に必ずやっていることなのだが、この時にここにいられることへの感謝を空に向かって呟いているのだ。

24時間を超えて2014

いよいよ長い長い24時間の戦いの火蓋が切って落とされた。

(4)へ続く

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