Raca

LMESシリーズ ドイツ戦

2008.08.17 LMESシリーズ ドイツ戦 ドイツ・ニュルブルクリンク
Po. No. Cl. Team Machine Driver LAPS
1 8 LM1 Team Peugeot Total Peugeot 908 Hdi-FAP LAMY / SARRAZIN 195
2 7 LM1 Team Peugeot Total Peugeot 908 Hdi-FAP GENE / MINASSIAN 195
3 2 LM1 Audi Sport Team Joest Audi R10 TDI PREMAT / ROCKENFELLER 194
21 LM1 Epsilon Euskadi Epsilon Euskadi Judd NAKANO / VALLES 163

フランクフルトの空港に降り立つのは何度目だろう?もう2桁は越えていると思います。
この空港へはF1時代から含めるとかなりの回数訪れています。空港が近づくと、ドイツ特有の深い深い黒い森が出迎えてくれます。
機上から見下ろす空港近くの風景、この森を見ると、ドイツに来たなぁと感じさせられるのです。

これは余談ですが、この深い深い森を見ていると、ベートーベンやワーグナーの音楽がこの国から生まれてきた理由が容易に想像出来るような感じがします。
音楽には疎い僕ですが、そんな僕でもイメージが湧いてくるのが不思議なものです。

空港でレンタカーをピックアップし、一路サーキットのあるニュルブルクリンクへ。
日本から持ってきた勇壮なクラシックのCDを聞きながらアウトバーンを快走。
1時間半ほどでニュルブルクリンクに到着です。明日はチームと合流し、シート合わせにミーティング、そしてコースの下見が待っています。
時差もあり頭は少しぼーっとしていますが、明日に備えてきちんと眠る事。これが上手く出来ないと、本当にこの週末が辛くなってしまいます。

 

時空を越えての移動の後に待っているのは、時差との戦い。
着いた2日後にはマシンに乗り込み、時速300キロ以上のスピードでサーキットを駆け抜けるのですが、時差を残すと微妙なコントロールと判断力が鈍くなります。
時間に余裕があり早めに移動が出来ればいいのですが、それが出来ない時、この時差調整は毎回走るのと同様に非常に重要なファクターになっています。

翌朝5時過ぎには目が覚めましたが、これなら良く眠れた方かな。
窓を開けて、深く深呼吸。
いい空気だ。
この澄んだ空気の透明感は東京にはないなぁ。
良く見ると霜が降りていて、かなり冷え込んでいるよう。
フランスにいる時から今年のヨーロッパは少し寒いと感じていましたが、今回のこの気温の低さには少しびっくり。

朝食を済ませ、いざサーキットへ。

少し久しぶりに会うメカニック達、エンジニア、チームのコックさん、皆共に戦う仲間達。
共に戦った事のある戦友との再会は、いつも嬉しいものです。

この日は無事に全てのプログラムを終えて、チームのトランスポーターでの食事。
この食事の時間は、レースウィーク中働き続けるメカニック達にとってもひと時の休息時間。

この日僕は時差の為か少し体調がすぐれなかったものの、この夕食時にはだいぶ回復。
明日には万全な体制で挑めるはず。

そして迎えた金曜日、この日は公式走行が2回行われました。
60分の走行が2回。
それほど多くの時間は走れません。
今回僕のチームは2人のドライバーなので、この2人で60分のセッションをシェアすることに。
有効に時間を使わないと、この60分はあっと言う間に終わってしまいます。
トラブルが出れば、2人のドライバーが走る事はまず不可能になるでしょう。

まずチームメートがセッションをスタート。
問題なく走行を重ねていましたが、1度ピットに戻り再スタートしようとしたところでトラブルが発生。
ギヤが入らず、スタートが出来ないようです。
ガレージにマシンを戻し、メカ達が必死に修復を試みるも作業は難航。
これで僕のこのセッションでの走行はなくなってしまうことに。
全くテストをしていない僕にとって、走れないのはやはり痛い・・・。
結局このセッション中は、最後までマシンを修復する事が出来ずに終了。

2回目のセッションまでには、無事にマシンを修復し、今度は僕がマシンを操る事に。
ルマン24以来の2回目となるこのマシン。
ルマンで感じたマシンのフィーリングは、どこまで改善されているか?
感触を確かめながら走行を重ねます。
ルマン24の時に感じていた問題の幾つかは、改善されているよう。
ハンドリングはまずまずといったところです。
30分の走行を終えたところでチームメートに交代。

今回タイムアタックはスペイン人のこの若手ドライバーが担当する事になっているので、彼が新品タイヤを装着して、ピットをあとに。
ラップタイムは現在の状況を考えれば悪くありません。

この今回のチームメートとなったスペイン人のアドリアン・ヴァレスは、現在F1の一つ下のカテゴリーであるGP2で戦う、スペイン期待の若手ドライバー。
同じ状況下では僕とほぼ同じラップタイムを刻んでおり、チームメートとしては、非常に頼もしい存在になりそうです。

2日目には60分の公式走行が1回と、20分の予選が行われます。

僕がスタートドライバーを務め、マシンのセットアップを担当。
そしてそのマシンでアドリアンがアタックをします。
この形での作業を進めて行った結果、マシンは順調に仕上がり、予選では10番手獲得。

トップ4はアウディ、そしてプジョー。
これはクラスが違う異次元のスピード・・・。
これに対してはディーゼル有利になってしまっている現行レギュレーションの改正が待たれるところです。
モータースポーツには、このように時として政治的な力が働く事が少なくありません。
スポーツとしては、とても残念な事ですが・・・。

ガソリン車の中では6番目のタイム。
そして重要な所ですが、そのタイムは僅差。
これはルマン24時から考えれば、大きな進歩と考えていいといえるでしょう。

明日のレースが楽しみになってきた!

今回僕はマシンのセットアップをチームに任されています。
チームメートが若く経験が浅い為、そのコントロール役も含めて・・・。

この日のミーティングでは長い長いディスカッションが行われましたが、結果として僕の意見が全てマシンのセットアップには取り入れられ、レースは僕のセットアップで行く事に。
予選で僕のマシンに大きく差をつけられたもう一台のエプシロンのマシンも、こちらのマシンのセットアップを移植する事に決めたようです。

日曜日は曇り空、気温は思ったほど低くなく、この3日間の中では一番暖かい。

この日は朝一に30分間のウォームアップ走行が行われました。
ここで各チーム共に、ガソリンを満タンにしてのセットアップの確認、ピットストッププラクティス、ドライバー交代などのレースに向けた確認を行います。
マシンの感触はまずまずだが、どうしても直しきれないこのマシンの特性がまだ解消できない・・・。
今週末、あらゆる方法でこのマシンの抱える一番大きな問題点を改善しようと試みましたが、どうしても消えない症状があります。
これはこのマシンの設計上の問題でもあり、直ぐには改善できない部分でもあります。
それを前回のルマン24で僕が指摘したのですが、今回のレースでその問題は確かなものになりつつありました。
ただ出来る限りの事はやりました。

スタートは予選をやったアドリアンが担当。
1周目はそのままで順位で通過するものの、15周を過ぎたところぐらいで、2つほど順位を落としてしまいます。
それでも、前とのギャップを保ちながら1スティントを走りきり、ルーティーンのピットに。
給油とタイヤ交換を済ませピットアウトを試みますが、エンジンがかからない!
何度もトライするも、スターターは空回りし、空を切る音が響いてきます。
これは明らかにスターターのトラブル。
マシンをガレージに戻し、スターターの交換が始まりました。

この修理に1時間近くを要したでしょうか。
スターターを交換し、ようやくピットアウト。
上位争いからは離脱してしまいましたが、チームとしては少しでも多くのデータを収集したいところ。
再び走り出したアドリアンのペースは快調で、ガソリン車の中では2番目ぐらいのペースで周回を重ねます。
そのまま30周を周回しピットに戻り、ドライバーを交代。
ようやく僕のドライビングが始まりました。

チームメートが1スティントごとにタイヤを交換しているのに対して、僕は2スティント、約60周という長丁場を同じタイヤで走り続ける予定でピットアウト。
タイヤやブレーキを労わりながらの走行を続けて、1スティントを終了。
ピットに戻り給油だけを済ませて、再びピットアウト。
2スティント目のマシンの状況は非常に厳しく、マシンをコントロールするのに、かなりの労力を強いられました。
これは僕がこのマシンに乗ってからずっと感じている問題の為。
タイヤが厳しくなってからのマシンは、まるで暴れ馬に乗っているかのよう。
このマシンの弱点がそのまま表にでてくるのです・・・。

もう1台のマシンも一人のドライバーが僕と同じストラテジーで走りましたが、ラップタイムは僕より1.5~2秒遅いもの。
これがこのマシンの状況を如実に表しています。

それでも何とか凌いで2スティントを走りきり、アドリアンに最後のステアリングを託しました。

アドリアンは1スティントで再びタイヤを交換する予定。
とにかくチームとしては、タイムを出す事に作戦を集中している様子。
1スティントだけタイヤをもたせればいいので、当然予選のように始めからプッシュする事が出来ます。
ここで彼は好タイムを記録、このラップタイムはガソリン車の中では3番手。
2番手のマシンとほぼ同タイムでした。
これがセットアップが正しい方向だったと言う事の答えだ!

順調に走行を続けていたエイドリアンですが、チェッカーまで残り3周となった所で、突然のスローダウン。
そのままピットに戻りマシンを止める事に。
どうやらブレーキが根を上げたようで、右フロントのブレーキダクトから嫌な匂いとともに、もくもくと煙が湧き上がってきています。
タイヤを外してブレーキを確認したところ、完全にブレーキパッドがなくなってしまっていました・・・。

万事休す。

チェッカーまで残り3周というところでのリタイヤ。
既に順位争いからは離脱していましたが、ゴール目前でマシンを停めざるを得ないのは、やはり悔しいものです。
このレースは1000キロレースですが、あと15キロという距離、ブレーキが持ってくれていれば・・・。
でもこれがレース。
たら、ればはない。

このブレーキの問題に関しては、ブレーキパッド自体のマテリアルの問題なのか、ブレーキの使い方に問題があったのかを現在調査中です。

今回のレース、チームとしては大きな進歩と可能性を見る事が出来たレースでした。
同時に何が現状のマシンの問題なのかを、本質的に見極める事が出来た事は、今後のチームにとって何よりも大きな財産になるはずです。

僕にとってもやはり大きな意味を持つ参戦となりました。

今回僕がチームから与えられた役割は、ほぼ完璧にやり遂げる事が出来たと思っています。

今年2回目の参戦で、マシンを更に深く理解する事が出来ました。
マシンを理解する事は、友達になる事と一緒です。
どんなマシンでも、理解を深めていくと、いい所もあり、そして悪い所があります。
全てを理解した上で、マシンの長所を生かしたセットアップに仕上げていくのが、マシンと友達になるという事。

同じマシンにずっと乗り続けられれば、これは心友と一緒。(笑)
少し走れば、マシンの状態を感覚的に掴む事が出来ます。

今回の参戦にあたっても、多くの方々のご協力を頂きました。
この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

この戦いが次に繋がる事を信じて。。。

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