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スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

スーパー耐久シリーズ 2018、開幕。

今年の相棒となるのは、イタリアのJASモータースポーツによって開発された新型ホンダシビック FK8。
マシンメンテナンスを担当するのは、昨年に引き続き古豪「童夢」。
今シーズンもシビックの魅力、そして何よりも車の運転の楽しさを沢山の方々にお届けするべく、チームの一員として再び共に戦えることは光栄なことだ。

今年最初のレースが開催されるのは、かつての私のホームコースでもあった鈴鹿サーキット。
ただ、1998年のF1でのドライブを最後に、それ以降は2004年のスーパーGT参戦のタイミングを除くと、ここ鈴鹿でレーシングマシンをドライブしたのはほんの数回に過ぎない。かつてのホームコースが今では数年に一度訪れるだけに留まっているのは少し寂しい……。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

今では私にとって貴重な機会となった鈴鹿でのレーシングマシンのドライブを、心から楽しみにしていたのはほかでもない私自身だ。
今年新しくなったシビック FK8をドライブするのも今回が初めてとなる。
先日岡山で行われた新車のシェイクダウンも兼ねたテスト走行は、今年共に戦うことになったチームメート達の走行時間を増やすことが重要でもあることから、私は参加を辞退していた。
そのため私にとってはレースウィークがぶっつけ本番での開幕戦になる。
思えばここ10年以上に渡り、ルマン24をはじめとする私が参戦してきたレースの数々は、ほぼ100%の確立で毎回ぶっつけ本番でのレース参戦だった。慣れとは不思議なもので、今ではこうした状況もあまり気にならなくなっている自分にも驚きだ。

今回は有難いことにレースウィークの木曜日に30分間のスポーツ走行時間がある。
新しいマシンの性格を理解しセットアップの方向性を見つけるには、少々短い時間ではあるが、チーム全員が持つ知識と経験を上手く引き出すことが出来れば、そんな時間のハンディさえも克服することが出来るだろう。
先日の新車でのシェイクダウンが雨での走行であったため、今回がチームにとってはドライ路面での初走行となる。

木曜日には30分のセッションが2回予定されている。
1回目の走行は今回チームのAドライバーとして登録されている植松選手が担当する。植松選手はスーパーGTやスーパー耐久で10年以上レースを続けていて、このスーパー耐久選手権ではチャンピオン経験者でもあるとのこと。
ジェントルマンドライバーの位置づけではあるのだが、もう既に箱車のスペシャリストと言ってもいい程のレースキャリアを持つドライバーだ。

その植松選手の走行後のマシンに対するコメントはポジティブなもので、バランスも含めて大きな問題はないようだ。気になる部分もあるようだが、コメントを聞いた限り、私の経験上マシンに慣れることで解決出来るであろう部分が多いように思われる。

2回目の走行は私が担当する。

私にとっては昨年のスーパー耐久シリーズ最終戦以来のレーシングマシンのドライブとなる。
世界最高との呼び声高い鈴鹿サーキット、そして新しくなったシビック TCR FK8でのドライブは実に楽しみだ。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

マシンを走らせてまず感じたのは、昨年から変わることのないハンドリングの優しさ。急激な荷重移動の変化にも大らかに応えてくれるマシンバランス、ドライバーにとってはとても優しい印象を受けるハンドリングだ。
これは昨年のマシンからの流れがそのまま受け継がれていると言っていいだろう。
マシンの全体的な安定感は昨年のそれより少し増した感じだろうか。
逆に言うとエッジな部分が少ないので、尖った速さを引き出すのは少し難しい印象もあるのだが、とにかく誰がドライブしてもマシンの限界を見極め易く、どんなドライバーにも優しいマシン特性であることは確かだ。

マシン以外での今年の昨年からの大きな変更としては、タイヤが横浜タイヤからピレリタイヤへと変わったことが上げられる。だがマシンを走らせた印象は悪くない。ただ、レース距離でのタイヤの摩耗であったり、一発のタイムの出し方に関しては、少しずつ研究していかなければならない。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

まだ30分間の走行ではあるのだが、何となくマシン、タイヤの性格を理解することは出来た。
ここからはいつも通りチームとのミーティングを行い、明日の公式走行へ向けてのマシンの変更点や進め方を考える時間だ。

どうやら情報では今回のTCRクラスのライバルでもあるアウディ勢のタイムが安定してかなり良いとのこと……。
ストレートスピードで我々シビック勢を圧倒しているアウディ、そしてフォルクスワーゲンなのだが、鈴鹿のようにストレートが長いサーキットではやはりそのアドバンテージを十二分に生かして速いタイミングを刻んでいるようだ。

金曜日には2回の公式走行が行われる。
今回の鈴鹿は5時間の耐久レースとなっている。
距離が長いレースということもあり、我々97号車には4人のドライバーが乗車する予定だ。

Aドライバーには冒頭にて書かせて頂いた植松選手、Cドライバーには昨年までF3を戦っていたまだピチピチの大津選手、Dドライバーには昨年までGT500を戦っていた小林選手と豪華な顔ぶれが揃っている。
小林、大津の両選手はGT300クラスにも参戦していて、今年はホンダ期待の若手ドライバー達がこのプロジェクトに加わってくれているのだ。
私にとっても若く元気のいい2人が入ってくれたことで、自分自身のモチベーション、そして楽しみが倍増したと言って良い。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

ルマン24では毎年そうだったのだが、若いドライバー達と同じマシンを共有することが出来るのは楽しいものなのだ。
遠い昔の忘れかけていた感覚を思い出させてくれるのと同時に、若い二人には今年一年一緒に仕事をする中で走る以外にも沢山の大切なことを学んで欲しいと願っている。
常々私は話しているのだが、上に上がっていくドライバー、そして世界で戦えるドライバーというものは、走る以外の部分が非常に優れており、そのプラスアルファの部分こそが、世界で戦う上では最も重要な要素であるということ。速いだけのドライバーは、世界を探せばごまんといることを知っておいた方がいい。

そのプラスアルファの部分を理解し、自分に足りない部分を受け入れ、それを補う努力を続けることが出来る人間だけが世界のトップへと登りつめることが出来る。
努力なくして世界の壁を乗り越えることなどできない。
そもそも速く走る能力だけでそれを可能に出来る人間などいないのだ……。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

金曜日に行われた公式練習では、まず午前中に植松、大津、小林の3選手がドライブを担当することに。
この走行で一番重要になるのはジェントルマンドライバーである植松選手に早い段階でこのマシンを理解して貰うことなのだが、植松選手のタイムはラップを重ねるごとに改善されていて、少しずつマシンを自分のものにしつつあるようだ。大津、小林の両選手は走行開始から流石のスピードを見せてくれている。これはチームにとって何よりも嬉しいニュースだ。

1回目の走行を終えてのドライバー達のコメントは、総じて似たものとなっていた。多少気になる部分はあるのだが、マシンバランスに関してはドラスティックに変化させる必要はなさそうだ。恐らく気になるのはタイヤの摩耗だろう。摩耗に関しては、走行後のタイヤの表情を見てみてもかなり厳しいことが見て取れる。セットアップで改善出来るのか、それともドライビングスタイルでカバーする方法を考えるしかないのか……。
決勝に向けてのキーとなるのは、タイヤの摩耗を如何にしてコントロール出来るかになりそうな予感だ。

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この日2回目の走行では、ドライバー全員がステアリングを握る予定になっている。
今回は私自身がBドライバー登録ということで、植松選手と共に予選を担当することになる。そのためこのセッションで新車になってから初めての新品タイヤを試す予定だ。
ユーズドタイヤで数ラップマシンの状態を確認した後ピットへと戻り、タイヤを新品へと交換しアタックへと向かう。
2周のウォームアップの後、初めてのアタックラップとなったのだが、マシンバランスは少しアンダー傾向であるものの悪くない。

ピレリタイヤに変わって初のニュータイヤでもあったのだが、反応自体が素直なのでマシンも予選用に大きく変更する必要は無さそうだ。
タイヤの美味しい部分、いわゆる一番いい状態は1ラップだけだと感じたので、上手くそのラップをクリアに使い切ることがポイントとなるだろう。
私の後は大津、小林の両選手がマシンを引き継いだのだが、ラップタイムも安定しており両選手共に順調な仕上がりを見せている。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

ライバル勢との差に関しては確かな情報がないのだが、やはりアウディ勢が我々を凌ぐ速さを見せているようだ。
ストレートスピードの差から考えると、鈴鹿のラップタイムで約1秒近い差がついてしまうのは致し方ないと私は想像している。
昨年ここ鈴鹿で開催されたレースでは、アウディと我々シビックとの間に予選で2.5秒の差があったとのこと。そこから考えるとこの公式走行でのアウデイ、フォルクスワーゲン勢との差は少なくなっており、状況は改善されていると考えて良いだろう。

土曜日午前には、レースウィーク最後となる公式走行、そして午後からは公式予選が行われる。
この公式走行では予選を担当する私と植松選手が予選に向けた最終調整を行う予定だったのだが、マシンにトラブルが起きてしまい走行時間の殆どをその原因究明のために費やすことになってしまった。
この走行では予選のマシンセットを決めるべく私がスタートを担当したのだが、ピットアウト直後から全くエンジンが吹けない症状が出てしまい、直ぐにピットへと戻ることに。
メカニックが原因と考えられる部分を確認して再びピットアウトするが症状は続いている。
その後もう一度部品を交換してピットアウトするのだが、やはり症状は消えない……。
再びピットへ戻り、残り時間も少ないことからここで植松選手へとドライバー交代を行う。問題の可能性のある部品を更に交換し、植松選手がピットアウト。このタイミングで交換した部品が正解だったようで、ようやく最後に周回を重ねることが出来たようだ。
このトラブルにより私は予選前の貴重な走行時間を失ってしまった。だが予選前にトラブルが解決してくれたのは有難い。

これで予選は再びぶっつけ本番となってしまうのだが、我々ドライバーはどんな状況でも考えられるベストを尽くし、結果を追い求めなければならない。
このぶっつけ本番の予選を前にして少し気になることがあった。
ここ鈴鹿では日によって路面状況が大きく変化することが結構あったりするのだ。
風向きが変わることでマシンバランスが大きく変化することもしばしば起こるのだが、この日は朝から風向きが変わってしまっていた。
昨日までは最終コーナーから1コーナーへ向かっての強風が吹いていたのだが、今日は真逆で海からの強い風が吹いている。この風向きはこの週末に入って初めてのものだ。

予選はまずAドライバーである植松選手のアタックからスタートする。

予選開始から少し時間をおいて、サーキットがクリアになるタイミングでのアタックを可能にするべくピットで待機している。
残り時間も半分を過ぎたあたりだろうか、ここでアタックへと向かう。
植松選手も朝のトラブルにより十分な走行を行わないままのアタックとなったのだが、そこはこのスーパー耐久での長年の経験できっちりとクリアラップを見つけてまとめてきたようだ。
前日の走行に比べるとアンダーがかなり強いとのコメントなのだが、朝の走行をドライブ出来ていない私としてはセットアップを変更すべきか否かの判断が難しい。タイムも前日に比べると少しではあるのだが遅くなっている……。

結局ほんの少しだけマシンのアジャストを行うだけでアタックへと向かうことにした。しかしピットアウトして直ぐに大きくマシンバランスが変化していることが分かった。
何だ、このマシンの挙動は……。

昨日までのマシンバランスとは一変してアンダーステアが強く、ハンドリングがかなり難しいものになっている。
タイヤの美味しいラップは1周だけ。
何台かのマシンが前後にいたため、ペースをコントロールしながらタイヤを温めつつアタックラップへと合わせていく。
アタックそのものは決して悪いものではなかった。
サーキットの状況変化により生じたであろうマシンバランスの変化には何とか対応することが出来ていたはずだ。
恐らくは風向きが大きくマシンバランスに影響を及ぼしていたのだろう……。2か所ほど合わせきれなかったコーナーもあったのだが、ここは朝の走行が出来ていなかったことを考えれば致し方ない。
結果、1台だけ飛びぬけて速かったトップのアウデイとの差がやはり0.8秒くらいだろうか。その他のアウデイ、フォルクスワーゲン勢とは0.1秒差の僅差だった。
当初の予想通りではあるのだが、全てをまとめることが出来ていれば、あと0.3秒程タイムを詰めることが出来ていたとイメージしている。
このイメージ通りの差であれば、明日のレースでは対等に勝負が出来るだろう。

目先の結果だけを意識するのではなく、レース全体を俯瞰して見てみることで、全ての流れをイメージしなければならない。
耐久レースにおいて最も重要なのはこの部分だ。

ここからは明日の決勝へ向けてのセットアップ、そしてチーム全体としてこの5時間の決勝をどう戦うかを考えなければならない。
明日の決勝も雨の心配はなく、ドライ路面での戦いとなりそうだ。
やはりキーとなるのはタイヤの摩耗をどのようにコントロールするかになるだろう。
あとは今回から導入されることになったFCY(フルコースイエロー)も勝敗を決めるポイントとなる可能性が高い。
アクシデント発生時にこのFCYが掲示されると、全車が時速50キロまでスピードを落とさなければならない。
そのためこのタイミングでピット作業をうまく済ませることが出来れば、大幅な時間短縮が可能になるのだ。
私はWEC世界耐久選手権でもこのFCYを経験済みだが、日本ではまだあまり馴染みのないシステムとなる。
この新しいシステムがレースにどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

迎えた決勝日は予報通りの過ごしやすい気候だ。
桜はほぼ散ってしまってはいるのだが、開幕戦にふさわしい清々しい天気となっている。

余談ではあるのだが、この決勝日4月1日は私の誕生日でもあったりする。(笑)スタート前にはチームがちょっとしたサプライズを用意してくれていた。
私自身は照れくさいこともあり、周りからお祝いをして頂くのがあまり得意ではない。(苦笑)そんなこともあり、自分の誕生日が本日であることは一切誰にも言っていなかったはずなのだが……。
それでもやはり嬉しいサプライズだった。
チームの皆、そしてチームメート達に感謝です。ありがとう!

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決勝のスタートは植松選手が担当する。
このスーパー耐久シリーズではベテランドライバーの域に達している彼がどんな走りを見せてくれるのか楽しみだ。
スタート前の華やかなセレモニーの間もあまり緊張した様子を見せることなく落ち着いているように見えるので、私としてはちょっと一安心。
97号車のドライバー全員がグリッドへと集まり、植松選手を激励している。今年は昨年からメンバーが一新された97号車だが、それぞれが自らの役割を理解していて、シーズンスタートとしてはうまくバランスが取れているように見える。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

チーム内でのそれぞれの役割を理解して、チームで戦うことの意味を学ぶこともこのプロジェクトの重要なタスクだ。
私自身この業界での経験が長く、かつルマン24時間耐久レースをこれまで9回戦ってきた経験から、こうした耐久レースにおいての戦い方の肝のようなものが感覚的に沁みついている。
この辺りを彼らにどう伝えていけるのかも、私にとっての今年の大きなタスクとなってくるだろう。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

心地よい春の空気がサーキットを覆いつくす中、2018年スーパー耐久シリーズの開幕戦がスタートした。
スタートを無難に決めた植松選手は、ライバルアウディ勢とフォルクスワーゲンとの間隔をキープしつつ、安定した周回を重ねている。
ペース的にはトップを走るアウディが我々を上回っているのだが、これは想定していた通りの差だと考えていい。
ここ鈴鹿ではストレートスピードの差は如何ともし難く、同レベルのドライバーがマシンをドライブした状況での0.5~1秒近いラップタイムの差は致し方ない。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

この差をドライバー全員の頑張りとチームワーク、レースにおいてのタイヤに優しいマシンセットを作り上げることでカバーするべく、この週末は取り組んできたのだ。
もともとタイヤに優しいシビックのハンドリング特性も、ここで大いに役立ってくれるだろう。

トップを走るアウディとの差は徐々に広がりはじめるのだが、後ろから追走してくるフォルクスワーゲンを抑えるべく懸命の走りをみせていた植松選手が、まずは予定通りのタイミングでピットへと戻ってくる。
ここで今回が初めてのスーパー耐久シリーズ参戦となる大津選手へとドライバーを交代し、再び戦列へと復帰。フロントタイヤのみの交換だ。

大津選手はタイヤの状況をみながら慎重にドライビングをしている様子がラップタイムから伝わってくる。
アウディとの差は付かず離れずといったところだろうか。
今回がピレリタイヤでの初レースでもあることから、やはりタイヤの摩耗には神経質になっている。
前半プッシュし過ぎると後半にかけて一気にペースダウンを余儀なくされる可能性があるからだ。
この辺りはドライビングをしながらタイヤから伝わってくる感覚を、研ぎ澄まされた五感で感じながら判断しなければならない。
スティントの後半に向けてタイヤの状況を見ながらペースを上げてきた大津選手が、ルーティンでのピットへと戻ってくる。
今回3番目のドライブを担当するのが私だ。

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ここで4本のタイヤを交換する予定だったのだが、タイヤの摩耗がそれほど悪くないとの判断で再びフロントの2本のみを交換して戦列へと復帰する。
この時点での順位は2番手だったと思う。
前にアウディ、そして後ろにフォルクスワーゲンが続いている。
後ろを走るフォルクスワーゲンは、恐らくタイヤを4本交換したのだろう。その差が少し広がっているようだ。
ここから前との差を詰めるべくプッシュしればならないのだが……。

走り始めからマシンバランスがオーバーステアに大きく振れていて、全く思い通りに走ることが出来ない。
ブレーキングからターンインまで、マシンは自分の意志とは全く違う反応をしてしまうのだ。
これは苦しい!

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後ろからはフルでタイヤを交換したであろうフォルクスワーゲンがハイペースで追い上げてくるのだが、こちらは10周を過ぎてもオーバーステアの症状が消えずどうすることも出来ない。

だがここで今回のレースのキーと言っても良いであろう大きな動きが!
15周辺りだっただろうか。フロントタイヤが減りはじめ、ようやくマシンバランスが改善し始めたタイミングで、今回から新たに導入されることになったFCYが発動したのだ。
ちょうど私が130Rに差し掛かる辺りだったのだが、ここからマシンをスローダウンさせてFCYの制限速度である50キロまでスローダウンしなければならない。

ここですぐさまピットに向けて無線を入れる。
「ここで入る?」
「……。」
「どうするの?」
「……。」
なかなかピットからの返答がない!
マシンは既にシケインへと差し掛かっていたため、ピット入り口は目前に迫っている。
ここでピットに入らなければかなりの時間をロスしてしまうことになるだろう。後ろにマシンがいないことを確認して更にスピードを落とし、ピットからの返答を待つ……。

ピットの入り口に差し掛かると同時に、ピットからの無線が届いた。
「入ってください!」

ギリギリのタイミングでピットへとマシンを滑り込ませることに成功し、ここでアンカーを務める小林選手へとステアリングを託す。
ピットへと戻る間に無線で4本全てのタイヤを交換する必要があると伝えていたため、ここで初めて前後4本のタイヤを交換することに。

このピットのタイミングは我々にとっては完璧なものとなった。
絶妙なタイミングでのピットストップを行うことが出来たことで、トップに立つことが出来ただけではなく、後続との差を大きく広げることに成功したのだ!
今年のレースでは、このFCYのタイミングがレースの勝敗を大きく左右することになりそうな予感だ……。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

ここからは小林選手が余裕のドライビングで残りの時間をクルージングすることになり、終わってみれば大きく後続を引き離しての勝利となった。

これは同時に今年新しくなったシビック FK8での初勝利。そしてインパクト大である開幕戦での勝利。
自身にとっては昨年の最終戦に引き続き、2連勝となった。

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そして再び私事で恐縮なのだが、決勝が行われた4月1日は私の誕生日でもあったため、長いレース人生において初めてのバースデーウィンを飾ることが出来たのはちょっとしたプレゼントだった。
長く続けていると本当に色々なことがあるものなのだが、こうした嬉しいハプニングはどんどん起こってほしいものだ。(笑)

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

終わってみれば、チーム、そしてチームメート全員の力で勝利を勝ち取ることが出来た今回の開幕戦。
だが今年のライバル勢との戦いは昨年以上に厳しいものになると予想される。次戦からは昨年より大きくなったハンディウェイトをマシンに加算されるとともに、今年はBOPの関係で既に我々新型シビックのみが若干のパワー制限を課せられているのだ。

こうした厳しい状況の中で重要になってくるのは、言うまでもなくチーム全体の総合力だ。

どこまでこのチームを強く出来るのか?
難しい状況ほどモチベーションが高くなるのは何故だろう?!
今年も色々なアドベンチャーがありそうだが、思いっきり楽しむことを忘れず、最高の集中力で戦いに挑んでいきたいと思っている。

スーパー耐久シリーズ 2018 開幕戦鈴鹿を終えて

中野信治

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