天王山の富士24時間耐久レースを終えて、後半戦を迎えることになるオートポリスでのシリーズ第4戦。
ここオートポリスのサーキットは数十年前のヨーロッパにおけるポピュラーなサーキットレイアウトを踏襲しており、ヨーロッパでのレース生活が長かった私にとってはちょっと懐かしい感覚が郷愁を誘う。
昨年はこの懐かしいサーキットを十数年ぶりにマシンを走らせている。
しかし残念ながらマシントラブルにより望んでいた結果が得られなかったこともあり、私にとっては昨年のリベンジとなる、是が非でも結果が欲しいレースだ。
昨年表彰台に上がれなかった全てのサーキットで表彰台に上がることも、私にとっては今シーズンのタスクの一つになっている。
冒頭でも触れた通り、このサーキットはヨーロッパテイストなレイアウトを持つと共に大きなアップダウンがあることでも有名なサーキットだ。
今回我々のマシンには、開幕からの2連勝と富士での2位入賞により、65kgのウエイトハンディが搭載されている。
これは私自身がもう一人マシンに乗車しているのと同じイメージなのだが、このエクストラウェイトが、アップダウンの大きいこのサーキットではかなり効いてくると思われる。
上り区間ではエンジンパワーを大きく奪われると共に、マシンバランスもアンダーステアが強くなるだろう。
下りに関して言えば車重が増えたことにより、ブレーキングがかなり厳しくなる…。
普段の街中の運転では同乗者が一人増えてもさほど気にならないだろう。
だが、マシンの限界をぎりぎりまで使い切ることでタイムを削り取っていくレーシングマシンにおいては、このようなちょっとした変化が思いかけず大きなハンディとなってくる。
特にTCRのように排気量もあってもともとが非力なマシンでは、この重さがWパンチでボディブローのように効いてくるのだ。
このサーキットでは少なく見積もっても1.0〜1.5秒はラップタイムが変わってくるだろうと思われる。
重量によるタイムロスは極めて大きいのだが、我々としてはマシンセットだけでなく、5時間の長丁場を戦う上での頭を使った作戦によりこのタイムロスを補っていかなければならない。
いずれにしても厳しい戦いが予想されるのだが、これは我らがモデューロホンダプロジェクトメンバーの真の実力を証明するには最高のシチュエーションと言ってもいいかもしれない。
ネガティブな言葉はそのまま自分へと帰ってくる。
こんな時こそ与えられた状況をポジティブに受け入れることで流れを引き寄せることが可能になるのだ。
今回のオートポリスも走行は木曜日からとなっている。
今年は折からの異常気象により、猛暑と豪雨が繰り返し日本列島を襲ってきているのが気にかかる。
ちょうど昨年の今頃もここオートポリスからそれほど離れていない場所で豪雨による大きな被害が出ていたのを覚えている。
西日本豪雨により被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げると共に、今後被害が拡大しないことを心から願うばかりだ。
テストは順調に進めることが出来た。
前回の富士から続いているマシンのちょっとした問題が時折顔を出すのが気にかかるが、まだ決定的な原因の究明には至っていない。今回はレース中に同じような問題が起こらないことを祈るだけだ。
今回は65kgのウェイトを搭載していることもあり、マシンのバランスを完璧にまとめあげるのは実際かなり難しい。そんな状況の中マシンセットに関しては満足できるレベルにあると言って良いだろう。
あまり多くを求め過ぎると逆に泥沼へと入り込んでしまう可能性もゼロではない。このような状況の時はちょうどいい加減のところを見つけて良しとすることが肝要だったりもするのだ。
重さを考慮した上での戦いかた、タイヤの使い方、ペースコントロール、そして暑さ対策とやるべきところは多岐に渡る。
ネガティブに感じられる条件をいかにしてコントロール出来るかが勝負のカギを握っていると言えよう。
金曜日に行われたテストセッションでは、主にレースを念頭に置いたシミュレーションに集中することにした。時折顔を出すマシントラブルが気にかかるが、明日の予選に向けてやるべきことはかなりやれたと思っている。
97号車のチームメート達もこの重いマシンを上手く乗りこなしてくれている。
今回私と共に予選を担当する植松選手が少し一発のタイムの部分で苦しんではいるのだが、コンスタントなレースラップに関しては少しずつ改善してきている。テクニカルなこのサーキットで65kgのウェイトハンディを搭載しているこのマシンを乗りこなすのは決して簡単なことではない。そんな難しい状況ではあるのだが、苦しみながらも正しいステップを踏んでくれているのは有難い。
何度も言っているのだが、これはチームスポーツなのだ。
チームメンバー全員が同じ船の上で戦っていることを忘れてはならない。
予選が行われる土曜日も、昨日までと同じく気持ちの良い青空が広がっている。先週までの悪天候が嘘のように…。
この日午前中には予選前最後の公式走行があり、ここで車のバランスを最終確認して、午後からはいよいよ予選が行われる。
この日も時間の経過と共に気温・路温が上がり続けている。
我々のマシンは路温の上昇を若干嫌う傾向にあるのだが、時節柄こればかりはどうすることも出来ない。後は上手くクリアラップを見つけて攻め切るだけだ。
予選はまずAドライバーの植松選手からスタートする。
この週末はいつもより少しばかり苦戦しているようにも見える植松選手なのだが、この予選をまとめ上げることが出来るだろうか。
タイヤのウォームアップを終えてアタックへと向かうその走りには少し硬さが見て取れる。セクタータイムを見ているのだが、どうしても1周を上手くまとめることが出来ていない…。
路面温度が高いこともあり、タイヤの一番美味しいところは計測1周目だけとなっている。植松選手はこの大事なタイヤの美味しい1周目のラップをまとめきることが出来ず、その後クールダウンも挟んで再びアタックへと向かっている。最終的には3周を終えた時点で計測されたタイムが彼のベストとなった。
タイヤの美味しいところを逃してのタイムだけに、想定していたところからはかなり離れてしまっている。
マシンに対するコメントはアンダーステアが強いとのこと。ここ数戦ずっと同じような症状が続いているだけに驚きはない。このコメントも私の中では想定内だ。
ここで僅かではあるのだがマシンセットに変更を施し、Bドライバーである私の出番となる。
今回はタイムアタックのタイミングが1周しかない。この1周を逃すと一気にタイヤはグリップを失い始めるのだ。
前後のマシンとの間隔を見極めながらタイヤのウォームアップを行いタイムアタックへと向かう。
絶対にミスは許されない。
マシンのバランスは…やはりアンダーステアが強い…。
これはFF車特有の動きでもあるのだが、折からの猛暑による気温の上昇と2戦目以降ウェイトハンディで重くなった車重により、この症状はなかなか消えてくれないのだ。
恐らくはマシンセットは少しずつ改善されていても、結果を残すごとに毎戦マシンが重くなってきているためいい部分と悪い部分が相殺されてしまっているイメージだ。
それでも私なりに上手く1周をまとめあげることが出来、アタック自体は決して悪いものではなかった。
自画自賛はあまり好きではないのだが、このアタックはタイミングも含めてほぼ完璧にまとめられたはずだ。
ノーウェィトでこの予選に臨んでいる98号車シビックの加藤選手からは差をつけられてしまったのだが、他のノーウェィトのマシン達とは互角のタイムを刻むことが出来ている。98号車とのタイム差に関してはやはりこのウェィトの部分が大きいだろう。
私自身のタイムは2番手だったのだが、A、Bドライバーのトータルタイムで争われる予選結果は5番手となった。
結果は5番手とTCRクラスの下位に沈んだのだが、私自身が叩き出したタイムに関してはコンペティティブなものだった。
この自らのタイムとマシンバランスからは、明日の決勝に向けてはポジティブな感触を得ることが出来ている。
チームメートには若い大津選手に小林選手もいるので、暑さ対策も含めて心配はいらないだろう。
明日は5番手からの追い上げとなるのだが、チームメート達と共に猛烈に追い上げたいと思っている。
そして迎えた決勝日も気持ちの良い青空が広がっている。
山のほぼ頂上に位置するここオートポリスならではの清々しい空気が気持ちいい。
この決勝に向けてはマシンの重さもあるため、いつもとは少し違ったセットアップの方向性、そしてレース戦略を色々な角度から検証してきた。
その流れの中でドライバーの出走順に関しても今回はいつもとは少し違ったものになっている。
開幕2戦は植松選手がスタートを担当してきたのだが、前回の富士24時間では大津選手がスタートを担当していて、重くなり始めたマシンでの戦い方に少しずつ変化をつけているのだ。
そして今回は小林選手がスタートを担当することになっている。
スーパーGTでの経験も長い小林選手は重いマシンでのドライビングに関しても経験が豊かであろうとの考えから、私の独断で彼がスタートドライバーを務めることに決めた。
スタート前後は気温と路面温度が最も高くなるタイミングでもあるので、やはりこの時間帯でのタイヤのマネージメントは非常に難しい。
小林選手のドライビングは実にスムーズなので、恐らくはタイヤへとかかる負担を最も少ない状態で走らせることが出来るだろう。
実は私自身もタイヤのマネージメントには自信がある。(笑)
今回はスタートドライバーを務めてみたい気もするのだが、重いマシンに対する経験と許容と言う部分では小林選手の方が私より一枚上だろうとの私自身の判断だ。
スタート前のセレモニーはいつも通り滞りなく進められている。
モータースポーツにおいて最も華やかな時間の一つでもあるこのスタート直前のグリッド上なのだが、今回のような暑い時期はこの時間が結構大変だったりするものなのだ。照り返しの強いトラック上でセレモニーの間待ち続けているメカニック達にとっては、これが灼熱地獄のような厳しい時間になることが多い。
我々ドライバーはこのセレモニーの前後で体調を上手く調整が出来るので問題ないのだが、モータースポーツの中で最も大変な仕事であると私が常々考えているメカニック達のことを考えるとこの時間が少し長すぎるのが気になってしまう。少なくとも海外のレースではスタート前進行にここまで長い時間を使うことはあまりないような気がするのだが…。
グリッド上でのセレモニーを終えて小林選手がマシンへと乗り込んでいる。
スタート前もいつもと変わらない様子だが、そんな冷静な表情の裏側はどんな感じなのだろうか?
人間は外から見るだけでは判断できない奥深いものを沢山もっているものだ。走りにはその人の性格が出るので面白い。
そして決勝がスタート。
大きなアクシデントもなく全車がオープニングラップを終えてコントロールラインを通過する。
小林選手は1コーナーでの位置取りがうまくいかなかったのか順位を1つ落としている。しかしまだ長い5時間のレースはまだスタートを切ったばかりだ。
我々98号車の前を走るのは96号車の昨年型シビックを走らせている高木選手。
GTでも長い間活躍を続けている選手で、今回はこのスーパー耐久で96号車の助っ人として参戦している実力者だ。
小林選手はこの96号車とその前を走る数台のTCRクラスのマシンの後方で、オーバーテークする機会を虎視眈々と狙っている。
65kgのウェイトハンディを積んだ我々のマシンが、ノーウェイトのマシンをオーバーテークするのは極めて難しい。
重くなった車重のせいでマシンの加速が悪くなっているだけでなく、ブレーキングでは止まらない…。
更にストレート区間の短いこのサーキットではなかなかスリップストリームを使うことも出来ないのだ。
タイヤを労りながらマシンを走らせ、ライバル達のペースが鈍るのを待つしかない。正に忍の一文字だ。
そんな状況の中、小林選手は上手くタイヤをマネージメントし続け、スティントの後半にはペースの落ちた96号車を見事にオーバーテーク!
他のTCR勢も先にピットに入り始めたことで順調に順位を上げてきている。
こうして小林選手らしい冷静なドライビングでスケジュール通りのスティントを終えるかと思われたのだが…。
ピットへと戻る周の1コーナーでまさかのコースアウト!
彼らしくないミスではあったのだが、猛烈な暑さと既に限界を迎えているであろうタイヤ状況では致し方ない。
こうした厳しい条件下では様々な想定外が起こりえるのがモータースポーツの難しさだ。このコースアウトで貴重な10秒を失ってしまった。
小林選手からステアリングを受け継ぐのは植松選手だ。
今回は彼の走りがレースでの勝敗を大きく左右することになるだろうと予想している。その割合はいつにも増して大きい。猛暑によりコース上でのドライバーの仕事は過酷なものとなってきているだろう。ミスなくコンスタントなラップタイムを刻み続けることが勝利へのカギを握ることになるのは間違いない。
走り始めの植松選手のラップタイムは安定していたのだが…。
突然チーム無線から「暑さ対策のクールスーツが使えない」との植松選手の悲痛な叫び声が聞こえてくる。この暑さの中体を冷却するクールスーツが使えないのは相当厳しいだろう。ここからの長い道のりを考えだけで精神的にやられてしまうはずだ。
エンジニアからは植松選手に対してクールスーツのホースの角度を変えたり、スイッチのオンオフを繰り返すことで再びクールスーツが動き出すこともあるとの返答。とにかく一度トライしてみて欲しいとの指示が無線で飛んでいる。
暑さとクールスーツのトラブルにより少し気持ちの乱れがあるのか、時折ラップタイムに大きな波がやってくる。タイヤマネージメントも含めて1時間強のスティントをミスなく走り切るのは全ての状況が整っていても簡単ではないのだ。
エンジニアからドライバーに対する励ましの無縁がずっと飛んでいるのだが、返ってくる返答はネガティブなものになってきている。
このままスティントを最後まで走り切ることが出来るのだろうか…。
もしこの段階で彼がピットに戻ってしまうようなことがあれば、我々の必勝を期した作戦は水泡と化すことになる。
ドライバーの安全が第一ではあるのだが、植松選手がここを何とか乗り切ってくれるのを我々はピット側では祈るしかできない。
エンジニアからの無線に対する返答は先ほどから変わらない。
ここで私の方から直接植松選手と無線で話すことにした。
私は植松選手とは同じドライバーというポジションにあり、これまで様々なカテゴリーに参戦し、厳しいと思われる状況は相当数経験してきている。
私からの無線の内容はこうだ。
「植松さんが厳しい状況なのは十二分にわかっているので、とにかくやれるところまで頑張ってみて下さい。」
同じドライバーとして、植松選手の頑張りを正面から讃えた。
この無線連絡の後、植松選手からの無線はぱったりと無くなった。
植松選手は今シーズン苦しい状況の中でもここまで共に戦ってきたドライバー仲間だ。今回のレースの重要性を思い直し、恐らくは覚悟を決めたのだろう。
ここからはラップタイムをキープするのに苦しみながらも、ついに大きなミスをすることなく最後まで走り切ってくれたのだ!
このドライバー交代の直後に植松選手は脱水症状で立ち上がれない状況になっていたとのこと。
そこまで自分を追い込んで頑張ってくれた彼の頑張りを無駄には出来ない!
ここからは私が戦う番だ。
3番手でステアリングを引き継ぎ、早速前を走る98号車のシビック、そしてアウディの追撃に入る。
この週末ずっと取り組んできた65kgのウェイトハンディ対策のセットアップが功を奏したのか、マシンバランスは悪くない。
20秒以上あったアウディ、40秒近くあった98号車シビックとの差を削り取るべく、プッシュを続けることが出来ている。
そして20ラップくらいを過ぎた辺りで、ついに前を行くアウディを眼前にとらえることに成功。その少し前にはペースの上がらない98号車も視界に捉えている。
前を行くアウディはマシンの重量も軽く、ストレートスピードが速い。直線区間がそれほど長くないここオートポリスでは、この直線でのスピード差がオーバーテークを更に難しくするのだ。
何度かオーバーテークを仕掛けにかかるのだが、コーナー出口で並びかけてもストレート区間であっという間に離されてしまう。コーナリングスピードはこちらが圧倒的に速いのだが、なかなかオーバーテークを成功させることが出来ない。
トップ争いはあっという間に3つ巴の様相を見せている。
前を走る2台のペースは全く上がらない。こちらとしては周回遅れのマシンを利用するか、更に相手がタイヤを痛めてペースを落とすのを待つことで確実に前に出られると確信していたのだが…。
ちなみにこの時点で私のクールスーツは作動しておらず、私も植松選手同様にサウナのような暑さの中でドライビングを続けている。
ただ、始めからクールスーツはないものだと思っていたので、既に覚悟は決っていたこともあり暑さはさほど気にならない。
トップを走る98号車のマシンもノーウェイトのため、コーナーからの加速は我々とは比較にならないほどに速い。
各車それぞれのこの微妙な条件の差がレースを面白くしていると言って良いだろう。
我々97号車は厳しかった予選の状況から、ようやくここまで這い上がってくることが出来た。65kgというウェイトハンディを搭載しながら、ついにここにきて優勝の二文字が見えてきたのだ!
ただこれはまさかの出来事ではなく、私のイメージ通りに展開が進んできた結果だ。最後に表彰台の一番上を奪い取るべく、この週末は全ての準備を整えてきている。まずは私自身が確実に前の2台をオーバーテークするべく冷静に戦わなければならない。
ところが!
その矢先に信じられないようなトラブルが起こってしまう。
ちょうど1コーナーをクリアしたところで急激にマシンが動力を失い、エンジンが失速してしまっている。
ガス欠なのか!?
しかしガソリンの残量は間違っていないはずだ。一体何が起きている!?
失速して止まりそうになるマシンを何とかコントロールしながらピットへと向かう。ここでマシンを止めてしまったら全てが終わる…!
最大限に感覚を研ぎ澄ませ、マシンをピットまで運ぶことに集中しなければならない。
マシンは何度も動力を失い失速を繰り返すが、何とかピットまで辿りつくことが出来た。
1コーナーで突然症状が始まったこともあり、ピットへと戻るまでに長い時間を要することになってしまったのだが、マシンがコース上でストップしてしまわなかったのはなにより不幸中の幸いだ。
このピットでアンカーを務める大津選手へとドライバーを交代。
タイヤ交換と給油を行いピットアウトする。
しかしマシンに何が起きていたのかの原因はまだ分からない…。
この緊急ピットによりピットアウト後の大津選手のスティントは予定より長くなる。マシントラブルにより予定よりもピットインが早まってしまったためだ。
エンジンの問題は解決しているようで、ラップタイムは安定している。
どうやらこの問題は前回富士のレースからの延長線上である可能性が高い。
いつどのタイミングで発生するか分からないこの問題は、この週末もプラクティス段階から何度か起こっていたのだ。
兎にも角にもここからは同じトラブルが起きないことを祈るしかない。
ウェイトハンディの分をチーム全員の頑張りで取り返し、表彰台の真ん中が目前まで迫ってきたタイミングでのトラブル…。
走行後は珍しく私自身が怒りを爆発させてしまった。大人気ないと反省しきりではあるのだが、この悔しさがチームと自分自身を強くしていくだろうと信じている。まだ自分にもこんな気持ちが残っていたとは…。
先頭を走るアウディと98号車のシビックは遥か前方へと離れてしまっている。
この差はトラブルにより1ラップを丸々スロー走行することで失ったタイム差だ。このギャップを埋めるのは難しいのだが、大津選手はタイヤマネージメントを続けながらもプッシュを続けている。
トップ2台は激しい争いだ。
先頭を走るアウディを98号車シビックが猛烈に追い上げている。タイヤが苦しいアウディも善戦していたのだが、この98号車の猛烈なプレッシャーに負けたのかコースアウト!
ここで労せず98号車がトップへと浮上、そして我々97号車も労せず2番手へと順位を上げることが出来たのだ。
ここからは先頭、そして後続との差が大きいこともあり無理をする必要はない。
あとは大津選手がミスなく走り切るだけだなのだが…。
ここでひとつ心配なことが我々にはあった。
マシントラブルにより私が想定外の早めのピットインとなったため、スケジュールより周回数が伸びた大津選手の燃費がぎりぎりなのだ。
ペースを落とさなければ最後まで走り切ることが出来ない。
しかしスティント後半に向けて展開が楽な方向へと向かってくれたため、燃費もコントロールすることが出来たのは不幸中の幸いであった。
こうして長い5時間を何とか走り切り、2位表彰台を獲得。
シリーズポイントを考えると嬉しい表彰台なのだが、今回の2位は正直いつもより悔しい想いの方が強かった。
大きなハンディを背負いながらも強く勝ちを意識して挑んだオートポリスでの戦いだっただけに…。
良いこともあれば悪いこともあるものだ。
見る角度を少し変えれば、今回の2位獲得も運があったからこそだと考えて良いだろう。物事は目先の物事だけで判断してしまうと、正しい答えを見誤ることが多いものだ。
次はいよいよチャンピオン決定の可能性がある茂木でのレースが待っている。
ここで2位以内に入れば、最終戦を待たずしてチャンピオンが決定することになるのだ!
モデューロホンダレーシングの究極の使命は、結果もさることながらマシンを操ることの楽しさを一人でも多くの方々に伝播することだと私は思っている。
引き続きマシンをドライブする楽しさを忘れることなく、速くて強いホンダシビックを多くの皆様に見て頂けるようチーム一同全力で戦います!
中野信治