Raca

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

スーパー耐久第2戦の舞台となるのはスポーツランンド菅生。
私がこのサーキットを訪れるのは実に10年ぶりになる。

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遡ること23年前のF3時代には、ポールポジションを獲得したこともある懐かしいサーキットだ。

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そして1995年にはF3000で初めて表彰台に上ったのもこのサーキットだ。このF3000時代、私が共に戦っていたのが現在我々のマシンメンテナンスを担当している童夢だった。童夢とは実に21年の時を越えての再会になる。

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更に今から遡ること30年前の1987年には、ここスポーツランド菅生内にあるカートコースにて、当時カートの日本一決定戦であった「JAPAN KART GRAND PRIX」で優勝を飾っている。

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11歳でカートを始めて以来5年の歳月が過ぎ去り、幼かった少年の夢が少しずつ形になり始めていた頃だった。
余談ではあるが、ここからちょうど10年後の1997年。
絶対にF1ドライバーになるという少年の大きな夢が、ついに現実のものとなる。
カートを始める前から憧れ続けたアイルトン・セナと同じ舞台で戦いたいという、もう一つの夢は叶わなかったのだが・・・。

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運命とは実に面白い。
運命の糸とは複雑に絡まり合い、一見するとそれぞれが全くバラバラなもののように思えるだろう。だがその複雑に絡み合った糸も逆から辿っていくことで、実は思いのほかシンプルなものであることに気付くことが出来る。
ちょうど、あみだくじをゴールから逆さに辿っていくことで選ぶべき道が鮮明に見えてくるのと同じように。
明確なゴールさえ見つけることが出来れば、あとはそこに向かってやるべきことはとてもシンプルに見えてくるものなのかもしれない。
一番大切なのは明確なゴールを見つけること、そしてそのゴールを絶対に見失わないことだ。

話を戻そう。
茂木での開幕戦を終えてからここ菅生のレースまでの間に、テスト走行の時間を得ることは出来なかった。
レース後に幾つかの課題は見つかっており、今回のレース前に試しておきたいことが多々あるのは事実なのだが、我々モデューロホンダプロジェクトの目的は、あくまでホンダシビックのドラビングの楽しさと魅力を沢山のカスタマーの方達にお伝えすることだ。

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テスト走行の機会を作ることで、チームだけではなく我々ドライバーもマシンを深く理解し確実に速さは増してくるだろう。しかし、優勝だけを追いかけることが今回のプロジェクトの本来の目的ではないのだ。
もちろん、やるからには勝ちたい。ただ、与えられた条件の中で最大限の結果を残すことが我々に課せられたタスクでもあることを理解しなければならない。

私はここ10年以上に渡り毎年違う国の違うチームでルマン24を戦ってきた。
しかも事前テストもない、誰一人チームメンバーのことも知らない状況からレースウィークがスタートすることが当たり前になっていた。
おまけに仕事相手はフランス人であったり、イギリス人であったり、はたまたスペイン人であったり、ベルギー人であったりと多国籍でバラエティに富んでいる。仕事の仕方も違えば価値観も違うのだ・・・。

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自らヨーロッパのチームとの契約交渉を数か月に渡って行い、同時に長く厳しい日本でのスポンサー交渉を経てようやく戦いの舞台に立つことが出来る。
戦いの舞台に立つことが出来たなら、そこからは限られた時間と条件の中でドライバーとしての最大限の仕事を遂行する。
ぶっつけ本番であることを言い訳にすることだけは絶対にしない決めている。
この世界ではいかなる状況においても言い訳は通用しないのだ。これが10年以上もの間、世界を相手にずっと続けている私の活動である。

もう10年以上もの間、年に1度か2度くらいしかレーシングカーをドライブしていない私なのだが、それでも強力なライバル達と遜色ないレベルでマシンを操れているのは正直なところ自分自身でも謎なのだが・・・。
今ではちょっと通りすがりのドライバー(?!)のようだが、限られた条件の中で最大限の結果を残すことが自らに課したきたタスクでもあった。

また余談が長くなってしまった。
我々モデューロホンダプロジェクトチームは木曜日に菅生のサーキット入りだ。
私もチームと同じく木曜には懐かしのスポーツランド菅生へと到着。やはり少し懐かしい感じがする。実家に帰省した際に目にする風景で、ふと青春時代を思い出す感じに少し似ているかもしれない。
折角なので少しだけカートコースも見に行ってみたのだが、当時からは少しコースレイアウトが変わっているようだった。久しぶりにこちらも走ってみたい(笑)
未だカートは最高に楽しいと思える乗り物であり、今でも私はカートでのトレーニングを大切な時間にしているのだ。

サーキットに到着してみると、どうやら週末に向けて既に各チームがテスト走行を行っているようだ。残念ながら我々にテストへの参加予定はない。少しばかり羨ましい気持ちがない訳ではないが、こんな時こそ今自分が出来ることに集中することが重要になるだろう。
時間もあるのであちこちのコーナーに行って、ライバルチームのマシンの動きを観察することにした。

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我々の出場するST-TCRクラスのライバルチームとなるのは2台のAUDI勢だ。
彼らは開幕戦のもてぎ後にもプライベートテストを行い、ここ菅生でも既に水曜日からテスト走行を行っているとの情報も聞こえてくる。外から見る限りライバルのマシンの挙動はなかなかのものだ。マシンの限界は非常に高く、我々のマシン性能を上回っていると思われる部分も容易に見て取れる。
これは厳しい戦いになるかもしれない・・・。

金曜日には公式スケジュールの中で2回のテスト走行が行われる予定だ。それぞれ1時間ずつで合計2時間の走行時間。3人のドライバーでこの時間をシェアするため、一度マシントラブルやドライバーのミスが出てしまうとあっという間に走行時間が削られてしまう。
我々のようなぶっつけ本番での戦いの場合、こうした部分での総合的なマネージメントが非常に重要になるのは言うまでもない。

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前回のもてぎ同様に、走り始めはAドライバーである伊藤選手が担当する。伊藤選手はここ菅生でのレースの1週間前に鈴鹿サーキットで開催された「2&4」にて2輪のレースにも参戦している。彼は私より少し年齢も上なのだが、そのタフさに驚かされる。
まずはマシンのセットの確認の為の走行となるのだが、ピットアウトから数周したところでエンジンに不調を抱えていることが分かり、ピットへとマシンを戻す。

メカニック達がデータの確認を急ぐのだがなかなか原因が特定出来ないようだ。
何度かインアウトを繰り返すのだが、問題が解決していないようでペースは上がらない。
走行時間だけは刻々と過ぎていく・・・。

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ここでBドライバーである海老澤選手へとドライバー交代をすることに。
今回も我々97号車は前回のもてぎ戦同様のドライバー編成だ。
ピットアウトした彼もすぐさまエンジンの不調を訴えている・・・。
ほどなくピットへと戻りエンジニア達が再びデータのチェックなどを急ぐのだが、これといった問題点を特定することが出来ない。再び時間だけは刻々と過ぎていき、残り10分となったところで最後に私がステアリングを握ることに。

10年ぶりとなる菅生のサーキット、そして前回のレースから少し変更してきているシートポジションなどの確認も兼ねて走行を開始する。
2人の走行時より少し状況は良くなってきているのか、問題は残っているのだが決して走れない程ではない。ただエンジンの回転数によっては、問題の症状が出ているのも確かだ。

残り時間も殆どないためそのまま走行を続け、マシンのフィーリングを確認する作業に集中する。5周ほどであったのだが、基本的なマシンのフィーリングを掴むことは出来た。久しぶりの菅生も周回を重ねるごとに感覚が蘇ってくる。

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走行後は97号車・98号車のドライバーとエンジニアが集まり、いつも通りのミーティングが始まる。98号車の方はマシントラブルもなく順調にテストをこなすことが出来たようだ。
我々の方はまだ正しい状況での走行は出来ていない。
ただ最後に少しだけマシンを走らせることが出来たことで何となく状況を把握することは出来ている。今回は時間の短縮を狙い、チームの2台が少し違うセットアップでマシンを持ち込んでいるのだが、どうやらハンドリングに対するコメントは酷似しているようで、マシンの動きに関しては似たような状況のようだ。
もてぎでのマシンのハンドリングとは真逆のコメントなのが興味深い。サーキットの特性によりマシンの挙動が変わることは多々あることなのだが、こうしたFFのマシンでもこのような形で変化が起こるということを学ぶことが出来たのは大きい。

この極端なハンドリングの変化に始めは頭を抱えていたチームメンバーだったのだが、やはりここは数の力である。3人寄れば何とかとは言ったものだが、それぞれのドライバー達から問題を改善する為のアイデアが次々と出されていく。私自身もこうしたパズルの組み立てに関してはかなり得意な方だ。

私がこうして何年にも渡り通りすがりのドライバー(?!)を続けられているのも、恐らくはこのセットアップ能力の高さによるところが大きいだろう。
これは長いレースキャリアの中で、カテゴリーの違う数多くのレーシングマシンをドライブし、また海外の異なるチームとの仕事を続けてきたことで養われた能力の一つなのかもしれない。ただ今回のような箱車での経験は極めて少ないのだが・・・。
ほどなく2回目の走行に向けての方向性は決定し、メカニック達はセットアップ変更の為の作業に入る。エンジンの問題も解決の方向へと向かいそうだ。

2回目のセッションでも同じく伊藤選手がスタートドライバーだ。中古タイヤで数周ほどマシンの確認を行い、ピットに戻る。どうやらマシンの状況は改善されているようだ。
1回目のセッションで解決することができなかったエンジンの問題も解消されているとのこと。チームスタッフも我々97号車のドライバーもほっと胸を撫でおろす。

ここで伊藤選手が新品タイヤに交換してピットアウト。予選に向けたシミュレーションだ。
すぐさま好タイムを叩き出す。マシンのセットも正しい方向へと向かっていると思われる。
それにしても伊藤選手の器用さには驚かされる。

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

2番目のドライバーは海老澤選手。
海老澤選手と私に関しては、レースに向けてのシミュレーションも兼ねてガソリンを満タンにしての走行だ。ここからはレースに向けてタイヤの摩耗状態とマシンが重い状態でのバランスを確認する作業になる。

走行を開始した海老澤選手のラップタイムは非常に安定していて、自信を持ってマシンを操れている様子が見て取れる。そしてセッションもラスト15分となったところで最後のドライバーチェンジ。引き続き私がレースシミュレーションでのセット確認をするべく周回を重ねる。
10年ぶりとなる菅生のサーキットを思い出しながらのドライブだ。マシンバランスはまずまずといったところだろうか。少し気になる部分もあるのだが、ここは明日の予選に向けて修正していけるだろう。

初日は何とか最低限のメニューをこなせたとは言えやはり時間は足りない・・・。
走る時間が足りない部分は、マシンを降りてからのミーティングで補うしかないのだ。
97号車・98号車それぞれのドライバー達が意見を出し合いながら、問題の答えを導きだしていく。
今のチームにはこの部分での強みがある。箱車での経験が豊富なドライバーがいてくれることも大きいだろう。
98号車には箱のスペシャリスト加藤選手、そして大ベテランの黒澤選手もドライブしていて、彼らとのデータの共有や情報交換が類穎に行われることで大幅な時間の短縮が可能になっている。今はやりの「時短」だが、これはチームの組織力が試される重要なポイントなのだ。

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予選への準備は整った。

土曜日には練習走行がなく、予選はまさに一発勝負だ。
我々97号車は実質金曜日の1セッションしか走れていないだけに、この予選に向けては決して不安がないわけではない。今回の予選もレギュレーション上、前回と同じく伊藤選手と海老澤選手のタイムが順位に反映されることになる。

この15分間ずつの予選では、まず最初に伊藤選手がアタックを担当する。ウォームアップを終えてアタックに入るのだが、伊藤選手のラップタイムは思いのほか伸びない・・・。
続く海老澤選手の方も同じくタイムを伸ばすことが出来ず、こちらも金曜日のプラクティスで彼自身が記録したタイムを上回ることが出来ていない。

この状況は98号車の方も同じのようだ。やはりプラクティスで記録したタイムを上回ることが出来ていない。この予選に向けて施したセット変更が裏目に出てしまったのだろうか・・。

ライバルであるアウディ勢は我々より好タイムを記録しているのだが、やはり同じく金曜日の走行時のタイムを更新することは出来ていないようだ。
恐らくは気温の上昇によりマシンの挙動に変化が生じてしまったのだろう。走り終えたドライバーからのコメントによると、我々2台のマシンは同じような症状に苦しんでいる。予選の各ドライバーごとのインターバル時間は非常に短く、大きなマシンのセットアップ変更は出来ない。やれることは僅かな微調整のみだ。

私の走行時間も同じく15分間なのだが、レギュレーション上ここでのタイムが予選に反映されることはない。ただ私にとっては、ここ菅生で初めてとなる新品タイヤでの走行なので、決勝に向けたマシンの挙動を確認することは非常に重要になる。

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1周のウォームアップの後アタックに入る予定だ。
マシンバランスはアンダーステアが強い傾向があるが、それでも絶望的な症状ではない。
この予選のインターバルで微妙にアジャストした内圧やセットが、正しい方向へと向かったのだろうか。
ピットアウト後の1周目は慎重にフロントタイヤを発熱させることに集中し、2周目にはアタックラップに入る。マシンのバランスは思ったほど悪くはない。アンダーステア傾向は強いのだが、幾つかのコーナーを除いてはほぼイメージ通りのドライビングが出来ている。
最終コーナーでクラスの違うマシンと交錯して少しタイムを失うが、その他はほぼ完ぺきにラップをまとめてスタートフィニッシュラインを通過。
この状況の中ではベストと考えられるタイムを記録することが出来た。

シビックTCRをドライブするのも、ニュータイヤを使うのも今回がまだ2度目の私なのだが、マシンの特性に難しい癖がないこともあり、箱車の経験が少ない私でも短時間でマシンを理解することが出来ているのだろう。
これは同時にホンダシビックTCRの完成度が非常に高いことを意味している。

このワンアタックで叩き出したタイムが、ここ菅生でのST-TCRクラスのラップレコードとして記録されたのはちょっとしたサプライズだった。
そしてこの結果に一番驚いているのは誰あろう私自身なのだが。

最終的な予選結果は、前評判通りのスピードを見せたアウディ勢がワンツー、それに我々97号車と98号車が続くことになった。
開幕戦のもてぎ後からテストを重ねてきているライバル達が予選で速いだろうことは、ある意味想定通りだ。ここからは決勝に向けて何が出来るかを考え、チームが一丸となってベストな戦いをすることに集中するしかない。
予選後には再び明日の決勝に向けて念入りなミーティングが行われる。
まだ開幕から2レースしか戦っていないこともあり、チームとしても作戦に関しては手探りな部分が多いのも確かだ。ただこれに関してはライバルチームに関しても同じだろう。
基本的な戦略以外は、ある意味出たとこ勝負のような状況になる。
チームの瞬発力=経験値が試されることになるのだが、ありとあらゆるレースカテゴリーで経験を積み重ねてきた百戦練磨の童夢には、その経験値があるはずだ。

迎えた決勝日も空は晴れ渡り、初夏を思わせる暖かさ。
走る側だけではなく、観戦に来てくださっている方々にとっても最高のコンディションになるだろう。

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スタートドライバーは開幕戦の時と同様に伊藤選手が務める。14時のスタート時刻を迎えるころには気温・路面温度共にかなり上昇し、タイヤに厳しいレースとなるだろう・・・。
チーム側による細かい内圧の管理、そしてドライバーのタイヤマネージメントがレースで勝つための鍵になることは間違いない。

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

そして午後2時、決勝がスタート。
無難にスタートを決めた伊藤選手は、前を走るクラス違いのST2 、ST3クラスのマシンとの激しい争いを繰り広げながら、同クラスのライバルであるアウディ勢の2台を追う展開に。

クラスの違うマシンはレギュレーション上コーナースピードが遅くても、ストレートが速い場合があるためオーバーテイクが難しい。
重要なのは予選でラップタイムの近いクラス違いのマシンより前にいることなのだが、今回は予選でマシンのハンドリングを気温や路面状況に合わせきれなかったために、数台のクラス違いのライバル達の後ろからのスタートとなってしまっていたのだ。

対するアウディ勢の2台は前を遮るマシンがいない状況の中ぐんぐんとその差を広げていく。伊藤選手のペースは決して悪いものではないのだが、なかなか前を行くストレートスピードの速いマシンの前に出ることが出来ない。

一方我らがホンダ勢のもう一台98号車は、やはり予選でマシンセットに苦しみ後方からのスタートを余儀なくされている。その為今回スタートドライバーを担当した石川選手もクラス違いのマシンをオーバーテイクするのにかなり苦しんでいるようだった。
レースも約1時間を経過してスタートドライバーのスティントも後半に入るころには、ようやく98号車の前にいたマシンがピットに入りはじめる。そこでクリアとなったトラックで石川選手が一気にスパートをかけ始めた。

一方我々97号車の方は相変わらず前のマシンのペースに付き合わされる形でペースを上げることが出来ない。先頭を争うアウディとの差はそのまま開き続けるかと思われたのだが、どうやら彼らのマシンはかなりタイヤの摩耗が苦しいと見えてスティント後半からのペースは上げられていないようだ。

約70分近くのスティントをミスなく走り切った伊藤選手がピットへと戻り、海老澤選手へとステアリングを託す。
この時ペースを上げてきた98号車は、97号車の真後ろまで迫っていた。
我々のピット前後にはアウディ勢も同じくピットに入っており、ドライバーとタイヤの交換を行っているはずだが、このピット前後でミスがあったのか少し順位を落としているようだ。
ここでまだピットに入っていない98号車がトップに浮上する。

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

ドライバー交代を行った海老澤選手は順調に周回を重ねており、ラップタイムも安定している。

レースも中盤に差し掛かろうかというタイミングで、石川選手からドライバーチェンジを行った黒澤選手が他のマシンと接触したとの情報が入ってきた。
幸いにも自力でピットに戻ることが出来た模様で、タイヤを交換しただけで戦列に復帰することが出来たようだ。
この時ちょうどセーフティーカーが入っていたこともあり、順位こそ落とす結果になったもののラップダウンになることなくリカバリー出来たのは不幸中の幸いだった。
これで我々97号車は難なくトップの座をキープすることになる。

レース後半に向けては98号車と同チームでのトップ争いが予想されていたのだが、ここで再びライバルはアウディのマシンだ。
海老澤選手は予定通り少し短めのスティントを無事に走り切り、今回もラストのスティントを託された私へと最後のドライバーチェンジ。

ピットアウト後もトップをキープ出来るだけのアウディとの差は十分に開いている。
彼らの方に何らかのミスがあったのか、セーフティカーのタイミングが悪かったのか、いつの間にか20数秒程のギャップを築くことに成功していた。
こうしたちょっとしたタイミングが勝敗を分けることもあるのが、耐久レースの難しさであり面白さなのだろう。
後は私がゴールまでこのギャップを守りつつ走り切るだけだ。

ところが・・・。
走り始めて数周、どうもペースを上げることが出来ない・・・。
後ろを走るアウディのペースが速く猛烈な勢いで追い上げを開始してきている。
ピットからはもう少しペースを上げて欲しいとの無線が入ってくる。こちらもペースを上げたいのは山々なのだが、マシンバランスがまさかの大オーバーステアになってしまっていて全くペースを上げられない状況なのだ・・・。
考えられるありとあらゆる手段を使って今起こっている問題に対処すべく集中するしかない。

と、その時だ。
信じられないことに、我々97号車にピットスルーペナルティーが出ているとの無線が聞こえてくる。
一体何が・・・!?
無線の説明では海老澤選手の走行中に、イエロー区間での追い越しがあったとのことだった。このようなクラス違いの色々なマシンが入り乱れて走るレースでは、ちょっとしたタイミングのずれでこうしたミスは誰にでも起こり得ることだ・・・。

これでトップの座からは落ちてしまうことになるだろう・・・。
すぐさまこのペナルティーをクリアするべくピットへと向かう。
ピットリミットの時速50キロの制限をもどかしく感じながらピットロードを通過する。
ここでの最大の問題はピットアウトした時のアウディとの位置関係がどこにあるかだ。
ピットインからピットアウトのタイミングまで一瞬たりとも気を抜くことは出来ない。
ここでもコンマ数秒の争いは続いている。
ピットエンドのサインを横目で確認しながらリミッターを解除、この週末で最速と思われるスピードでトラックへと舞い戻る。

アウディのマシンは?!
ピットアウト直後にミラーに映ったのは、誰あろう我々とトップを争うアウディのマシンだった。

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辛うじてライバルの前で戦列に復帰することが出来たのだ!
その差は2秒あるだろうか。
ここからは猛然と追い上げてくるアウディとの一騎打ちとなる。
オーバーステアに苦しみながらの走行を続けているこの状況の中で、果たしてどこまで戦えるのか?!

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

焦ってはいけない。
焦りとは自律神経の乱れを意味する。焦れば焦るほど体には余計な力が入り、呼吸が乱れ、正確なドライビングからはどんどん遠ざかってしまう。
とにかく持てる全ての技を駆使しながら、マシンをコントロールすることだけに集中する。

そんな状況の中全力で限界まで攻め続けた結果、ミラーに映るアウディとの間隔は徐々に広がり始めている。どうやらライバルのマシンも決して楽な状況でないようだ。
ここからは再びマシンを確実にゴールまで運ぶことだけに集中する。マシンの挙動は相変わらずナーバスな状態が続いているのだが、絶対にミスは許されない。
レース後半はコーナリング時だけではなく、ブレーキングでもマシンの挙動は不安定で最後の最後まで気を抜けない状態が続いていた・・・。

そして遂にその瞬間がやってきた!!
1時間のスティントを完璧に走り切り、スーパー耐久参戦2戦目にして、初めてのトップでチェッカーだ!!

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

チームメートの二人も本当に素晴らしい仕事をしてくれた。
嬉しさというより少しだけホッとした感覚だろうか・・・。
開幕戦からここ菅生のレースまでの間に進歩してきてくれたチーム全員の努力を形にすることが出来たことは素直に嬉しい。
ただ、まだ自分自身の中では走りに関しても、マシンに対する理解度も100%ではない。
限界はまだ先にあるはずなのだ。
一方で、慣れない箱車に不安一杯のぶつけ本番でスタートしたこの戦いだが、全てのチームメンバーのサポートもあって少しずつマシンのことを理解出来始めているのも事実。

新しい挑戦に不安はつきものなのだが、46歳になった私にとっては新しい挑戦こそが大きな楽しみであり、モチベーションにもなっている。
私はこれまで本当に色々なカテゴリーのマシンでレースを経験させて頂いているのだが、この年齢になってまた未知の新しい挑戦をさせて頂けることに改めて大きな喜びを感じることが出来ている。
こうしたモータースポーツの原点である「車をドライブする楽しみ」を、私に思いださせてくれたホンダと童夢には改めて感謝を申し上げたい。

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

恐らくここからが我々ホンダ勢にとって本当の戦いのスタートになるだろう。
アウディの持つポテンシャルの高さが今後脅威になってくるのは間違いない。
純粋なスピードでは既に我々のマシンを上回っており、今後もテストを重ねることで今ある弱点を克服してくる可能性もある。
次戦の鈴鹿から参戦が決まっているフォルクスワーゲンも、前評判ではアウデイを凌ぐ速さを持っているとのこと。厳しい戦いが予想されるのは事実なのだが、勝つための戦い方はまだまだ幾通りでも存在するはずだ。

スーパー耐久シリーズ第2戦菅生を終えて

私が再びこのマシンでサーキットに戻ることになるのは、7月のオートポリスでのレースの予定だ。本当に楽しみになってきた!!

中野信治

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